圭秀(出家僧侶)の修行日記2013/12/05

初めてのお袈裟縫い(十五条糞掃衣)

 僧侶はお袈裟(ケサ)というものを身に着けますが、それは僧侶にとってとても大切なものです。 袈裟という言葉は、梵語「カサーヤ」の音写で、汚れた色を意味しています。 更に、お釈迦様の着物をも意味しています。 古来、出家者の衣服は世間的執着の対象にならないものが理想とされ、そのために不用となって捨てられた布片を縫い合わせて作ってきました。 これを糞掃衣(フンゾウエ)といいます。 人の欲望の対象にならない釈尊のお袈裟を纏(マト)うことによって、煩悩からの解脱、悟りという福を生み出し、心の動揺がなくなります。

 道元禅師(ドウゲンゼンジ※)様も正法眼蔵(ショウボウゲンゾウ※)袈裟功徳の巻の中で、「袈裟を掛けることの功徳は広大無辺であり、袈裟を掛けることによって一切の悪を断じ、悟りを得られる」と説いています。 法衣(ホウエ)という時には、袈裟と衣の二つを意味しますが、左肩に掛けて右肩を出しているのが袈裟で、禅宗では法の伝授を証明する法物の一つとして重要視されます。 お袈裟の形状は長方形ですが、布片の条数により五条衣(内衣・安陀衣)、七条衣(上衣・鬱多羅僧)、九条衣以上(大衣・僧伽梨)の三種類に分類されます。

 現在、私は檀信徒の皆様と共に十五条のお袈裟を作っています。 お袈裟の縦横の寸法は纏う僧侶の身長で決まります。 身長177センチメートルの私の場合、お袈裟の大きさは、縦幅は約132センチメートル、横幅は約215センチメートルとなり、十五条につき横布片は十五枚に分かれ、さらにその一条は縦に四枚(三長一短※)に分けられます。 つまり60枚の衣財(エザイ※)を縫い合わせてゆくのです。

 また、単にお袈裟といっても割截衣(カッセツエ)、帖葉衣(ネンヨウエ)、糞掃衣(フンゾウエ)等の種類があり、現在縫っているのは、紬の古衣財を使っての十五条雑巾刺による糞掃衣というものです。 糞掃衣の場合、必ず三重ないし四重に布を重ねなければいけません。 表布、シン布の上に「山形」「雲形」「波形」等の模様の布片をかがり縫いで縫い付け、3〜4ミリ間隔で雑巾刺をしてゆくのです。 その後、60枚の衣財を縫い合わせ、最後に裏布や紐をつけてようやく完成しますが、仕上がるまでにはかなりの手間と時間を要します。

 毎月17日に行われる観音講の際に、お袈裟の功徳について話をすることがありました。 その時に衣財の種類や、お袈裟の作り、却刺(キャクシ)という縫い方に興味を持たれた数十名の講員さんが今回の糞掃衣作りに賛同して下さり、60枚の衣財を分け合って把針(ハシン※)しています。

 私はというと、出家後に麻布による十三条割截衣、二十五条割截衣を把針した経験はありますが、それ以前となると縫い物の経験はさほどありません。 案の定、山形の布片をかがる時や、その上から運針をする時に衣財が自然と寄ってしまいます。 毎日、悪戦苦闘しながら把針しています。

 はたして衣財全ての雑巾刺が終わるのはいつになるかわかりませんが、それらをつなぎ合わせて1枚のお袈裟の完成を見るということは、それ自体まことに目出度いことであって、これ以上の幸せはありません。 多くの人がお袈裟を信じ、一針でも縫ってみようという志を起こし、仏縁を深められることを願います。


(備考)
※道元禅師:(1200〜1253)。鎌倉期の僧で、永平寺開山、日本曹洞宗の開祖。京都の人で、内大臣久我道親の子。「正法眼蔵」「普勧坐禅儀」「典座教訓」等の諸巻を説き示した。
※正法眼蔵:道元禅師が書いた95巻からなる書物。正法は正しい仏の教え。眼蔵はあらゆるものをうつし、包む仏の功徳をあらわしたもの。
※把針:縫い物をすること。
※衣財:法衣の材料。
※三長一短:(サンチョウイッタン)三枚の長い布片と一枚の短い布片の意。

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