圭秀(出家僧侶)の修行日記2013/08/28

夜施食会

 一般に一年の中でも8月は寺院にとって忙しい毎日が続きます。 永源寺においてもこのことは然りです。 盆行事は、先ず1日から始まり6日までの6日間、夜施食会(ヨルセジキエ)を行います。 そして、8日から13日の6日間で棚経参りをして、15日に山門大施食会(初盆供養) を迎えます。 16日以降は、他寺での山門大施食会の随喜(ズイキ)が続きます。 地蔵盆まではホッとできる時はなく体力を消耗します。 その中でも一番疲労が蓄積されるのは夜施食会です。

 施食会とは、飢えと渇きに苦しむ餓鬼道に堕ちた衆生(シュジョウ)を救うため様々な食べ物を施して供養する法要ですが、夜に行われるこの法要は八鹿町では夜施餓鬼(ヨセガキ)として信仰されています。

 檀家さんは、1日から6日までの期間(朝6時から正午まで)に法要の申込みができます。 それぞれの日の午後は、申込まれた施主家の位牌を位牌堂から本堂に降ろして施餓鬼棚に祭り、供物を供えて法要の準備をします。 夜8時から始まる法要では、参列者と共に「大悲心陀羅尼(ダイヒシンダラニ)」、「甘露門(カンロモン)三遍返し」「修証義(シュショウギ)」等を唱えておつとめをします。
 読経後の回向中に読み込まれる施主家の順番は、位階に関係なく申込みされた檀家さんの先着順となります。 そのため、各々の檀家さんは自分のご先祖がいつ読み込まれるかわかりません。 シーンとした本堂で読み込みが始まると、参列者は合掌をしながら耳をそばだて、自分の家のご先祖の戒名が読み込まれると深々と一礼します。 申込みの多い日は100軒を超すこともありますが、読み込み時は各家のご先祖の多少に関わらず全ての戒名を読み込むため、施食会一坐のおつとめで法要時間は1時間を超すこともあります。

 翌日も同様に朝6時に受付を開始しながら、本堂から位牌堂に続く階段を往復して施餓鬼棚の位牌を位牌堂に戻して本堂の掃除をします。 昼食を済ませた後は、その日の午前中に申込まれた施主家の位牌を位牌堂から降ろして法要の準備をするという流れです。 その為、夜施食会期間中はほとんど外出できず、本堂、位牌堂、庫裏を往復する毎日が続きます。

 今年の夜施食会期間中は、どういうことか初日から落雷を伴う大雨の日が多く、お参りされる檀家さんにとっては厳しい状況が続きました。 午前中の受付時に大雨に見舞われ、足元を雨でぬらしながら供物を持って申込みに来られる方、法要への参列の為にお参りしようと思ったら夕立に見舞われて、日が暮れて暗闇の中、地面に打ち付ける雨音だけが聞こえる中で、傘と杖を頼りに一歩一歩参道の階段を上ってこられる方は本当にご苦労様でした。

 私は毎年この法要をつとめるに当たって、最終日に近づくにつれ疲労が蓄積されて集中力が途切れそうになります。 今年は例年にない猛暑で夜にぐっすりと休むことができず、疲れが溜まってゆきました。 そして、疲労がピークに達するとこの環境から逃げ出したい思いに駆られることがありました。 しかし、そのような時、豪雨にもかかわらずお参りされる檀家さんの真摯な姿を見て自らを反省し、檀家さんのためにも頑張ろうという気持ちになりました。

 参列者の中には、長時間に亘る法要で各施主家のご先祖の戒名が読み込まれる中、正座を崩さず、他家のご先祖に対しても合掌し続ける方がおられます。 その姿に信仰ということを再び考えさせられました。 私自身ついつい安きに流されてしまいがちですが、毎年の盆行事だからといって慣れることなく、一坐一坐の法要を大切にし、今まで以上に信仰心を培うためにも、自らの精進が必要不可欠であると思い知らされた今年の夜施食会でした。

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