圭秀の修行日記2009/06/15

新型インフルエンザ

 新型インフルエンザが、今年メキシコやアメリカで発見され始めたのは4月中旬のことでした。 そして各メディアは、その被害状況を毎日のように世界各地へ伝えました。 当初私は、報道関係者の熱の入れようとは裏腹に、日本から遠い場所での出来事ということであまり関心を持ちませんでした。
 ところが、間もなく神戸市にて同型のウィルスが発見されます。 そして、5月17日には永源寺のある八鹿町でも発見されました。 養父市では、5月18日から24日まで幼稚園や小学校、中学校、高校が休校となり、この間、生徒は外出禁止となり自宅待機の毎日が続きました。 担任の先生は、生徒の自宅に電話を掛けながら、体温から感染の状況を調べました。 町の人影は消え、繁華街の人通りは疎らとなりました。 学校や各地域で予定されていた行事は延期や中止が相次ぎ、永源寺においてもご法事の延期を希望する連絡が入りました。 公立病院においては裏口がすべて閉鎖され、正面玄関では、病院関係者が緊張した表情で発熱した外来患者の対応に追われていました。 私はこれらの状況を知って初めて新型インフルエンザ問題の重大さを知りました。

 インフルエンザといえば、第一次世界大戦当時に全世界的に流行し、感染者6億人、死者4,000〜5,000万人ともいわれるスペイン風邪などが挙げられますが、人間とウィルスとの戦いの歴史をさかのぼると、今回の新型インフルエンザに始まった訳でなく、長い道のりを歩んでいることが分かります。

 話は変わりますが、一昨年に永源寺の本堂下にてシロアリが発見された際、関係者に全国のシロアリ被害の実態について話を聞いたことがあります。 その時の話では、地球温暖化で冬期でも暖かいと、越冬して生き残るものや、進化して生命力の強くなったものは、人間の生活に今までとは違うあり方で影響を及ぼしているそうです。

 環境が日々移り変わる中で、現代の人間はグローバル化を推し進めています。 インターネットの普及により物流は加速の一途をたどり、私たちは希望するものを以前と比べ短時間で得ることができるようになりました。 しかしその反面、進化したシロアリにせよ、新型インフルエンザウィルスにせよ、環境の変化に適応し、さらにパワーアップした新たな生物もまた、私たちの希望に関係なく短時間で身に迫り、生活に影響を及ぼしていることを自覚しなくてはいけません。

 新型インフルエンザ問題が大きく報じられているこの時期、帰宅後のうがい・手洗いの励行、規則正しい生活やバランスのとれた食事の摂取が叫ばれました。 私たちを取り巻く環境が日々移り変わる中で、私たちは毎日の情報に目を向けつつも、環境の保全、食生活の改善、そして私たち自身が本来持っている免疫の強化に心掛けなくてはいけないことを再認識させられました。

 お寺の生活は規則正しいといわれています。 確かに一日の流れから一年の流れ、さらには食事作法に至るまで様々な規範が定められています。 私たちは、道元禅師様(※ドウゲンゼンジ)や歴代のお祖師様方により伝えられた清規(※シンギ)に従いながら毎日を行じています。 今回のインフルエンザ問題を通して、生活のリズムの重要性を見直し、毎日のおつとめのありがたさを感じた次第です。 今この時を大切にし、一挙手一投足を一生懸命にやりきることに心掛け、これからも精進してゆきます。

(備考)
※ 道元禅師:(1200〜1253)。鎌倉期の僧侶で、永平寺開山、日本曹洞宗の開祖。著書に「正法眼蔵」「普勧坐禅儀」などがある。
※ 清  規:禅宗寺院における僧侶の則るべき規則。「一日不作、一日不食(イチニチナサザレバ、イチニチクラワズ)」の故事で知られる百丈禅師が示された百丈清規などがある。

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