圭秀の修行日記2009/05/08

花祭りを終えて

 桜が咲く頃、日本各地の寺院では花祭りが行われます。 釈尊降誕会(シャクソンゴウタンエ)ともいい、お釈迦様の誕生を祝して4月8日に行われる法要です。 誕生佛を安置したお堂を花で飾りつけ、龍王が香水で灌沐(カンモク)させたという言い伝えにちなんで、甘茶を誕生佛に注ぎます。 この時期但馬地方では、まだ多くの花が開花していないので、永源寺では1ヶ月遅れの5月8日にこの法要を行っています。

 私は、数年前から花御堂への花の飾り付けを小学校の低学年児童たちと共にしています。 法要前日の午前中に檀家さんより花を布施していただき、放課後から飾り付けを始めます。 お手伝いにこられた檀家さんが適当な長さに花の茎を切り、それを児童が花御堂の屋根に飾りつけてゆくのです。 あらかじめ屋根のどの部分にどのような花を飾りつけるか説明すると、児童たちは手際よく飾り付けをしてくれます。 そして、1時間と経たないうちに綺麗に飾り付けられた花御堂が出来上がりました。

 彼らの中には、甘茶を誕生佛に注いだ経験のない児童や、甘茶を頂いたことがない児童がいたので、法要後に灌佛(カンブツ)の説明をしながら甘茶を給仕すると、「甘い、甘い」といいながらお代わりをリクエストしてくれる子もいました。 子供たちは、甘茶を頂きながら誕生佛はなぜ天と地を指差しているのだろうかといった子供らしい素朴な疑問を私に問いかけるのでした。

 そのうちに、一人の女の子がお寺の中を探検したいといいました。 寺のつくりは、各伽藍(ガラン)が回廊によって繋がっているので、子供たちはそれぞれのお堂に興味を示したようです。 特に位牌堂では、自分の苗字と同じ苗字が刻まれた位牌を探したり、位牌に刻まれた戒名の意味を問いかけてきました。 永源寺の位牌堂は少し薄暗いので、そのお堂の中に位牌ばかりがずらりと並んでいると、子供たちは怖がって入らないだろうと思っていましたが、私の予想は裏切られました。 さらに驚いたことは、数人の子供たちがお堂の中央に祀られているお地蔵様の前で正座をして、仏像に対し手を合わせていることでした。 彼らは、他の伽藍に祀られている仏像に対しても同じように手を合わせ、ひいては外の梅の木や坐禅石にまで合掌していました。

 お釈迦様は、約2500年前にインドのルンビニーで誕生された際に、7歩歩かれて天と地を指差し「天上天下唯我独尊(テンジョウテンゲユイガドクソン)」といわれました。 天にも地にも私という存在はたった一人しかいない存在である。 そして、この世にある全ての命が等しく尊いものであるという意味です。 御仏(ミホトケ)はお寺のご本尊様、ご仏壇のご先祖様のみならず、山川草木すべて仏様、そして私自身がこの上なく尊い仏様なのです。 合掌は私たち自身への合掌であることを肝に銘じ、お釈迦様への報恩のためにも真実に少しでも近づく生き方ができるように精進してゆこうと思います。 子供たちとの和やかな交流を通して益々精進への気持ちを新たにした花祭りでした。


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