圭秀の修行日記2007/11/19

妙性寺晋山式

 京都の京丹後市大宮町五十河(イカガ)に妙性寺というお寺があります。 このお寺は山号を小野山といい、師匠の住する智源寺(宮津市)の末寺にあたり、私の兄弟子臼井樸堂さんがおられるところでもあります。 このお寺は、なんといっても百人一首の歌「花の色は 移りにけりな いたづらに わが身世にふる ながめせしまに」で有名な平安時代の歌人、小野小町を開基(カイキ※)とする由緒あるお寺です。 日本全国に小町伝承が多くある中、妙性寺のある五十河の地では今でも小町ゆかりの史跡を見学することができます。
 さて、この妙性寺にて11月17,18日の二日間、晋山結制式(シンサンケッセイシキ※)が行われました。 つまり、臼井樸堂さんの晋山結制式です。 今回はその模様をご紹介します。

 初日は首座入寺式(シュソニュウジシキ※)、土地堂念誦(ドジドウネンジュ※)、配役本則行茶(ハイヤクホンソクギョウジャ※)の各法要が行われました。 首座入寺式では、僧堂内に随喜(ズイキ※)御寺院が立ち並ぶ中、智源寺徒弟の羽賀孝行さんが首座として任ぜられ、それを受けて羽賀さんは随喜寺院の前を深々と頭を下げながら堂内を一匝しました。 配役本則行茶では、智源寺方丈様が仏の教えと世間一般の考え方との両面から本則(ホンソク※)について提唱され、僧侶のあるべき姿をお示し下さいました。

 翌日は午前8時に新命(シンメイ※)様を初めとする稚児行列が安下処(アンゲショ※)を出発いたしました。 時々パラパラと雨の降る曇り空でしたが、かわいらしく着飾ったお稚児さんが町内を歩き始めると、あちらこちらでカメラのシャッターが切られ、長い行列はゆっくりとお寺を目指しました。 また、この行列には永源寺梅花講員も参列し、御詠歌のお唱えにておめでたい晋山式法要に花を添えました。

 新命様が山門に到着すると晋山式(シンサンシキ)が始まりました。 これは、住職就任の儀式です。 新命様は上求菩提下化衆生(ジョウグボダイゲケシュジョウ※)という誓願を、山門(サンモン)、仏殿(ブツデン)、祖師堂(ソシドウ)、開山堂(カイサンドウ)の前で吐露されました。 引き続き厳修された祝国開堂(シュッコクカイドウ)の法要では、国家の隆昌発展を祝い妙性寺本堂を信仰、修養の道場として広く開放することを宣言されました。 この法要では、随喜寺院が新命様に禅問を投げかける場面がありますが、新命様は一つ一つ丁寧に答えられ、参列者は頷きながら聞き入っていました。 祝国開堂が終わると、首座法戦式(シュソホッセンシキ※)、歴住報恩諷経(レキジュウホウオンフギン※)、檀信徒総回向(ソウエコウ※)と続きました。
 首座法戦式では、首座和尚が激しく問答を戦わせる場面があります。 拈竹箆(ネンシッペイ※)の法語が唱え終わるや否や堂内のあちらこちらから問者(モンジャ※)と首座和尚の気鋭の大音声による問答が投げかけられました。

問者「第一座に問う。この度の法戦、汝の示したるは何ぞ。」
首座「仏法の正門、仏法の正道たり。」
問者「中々、ならば汝、何が故にその門をくぐり、何が故にその道を行くや。」
首座「自未得度先度他の心を行ずるためなり。(※)」
問者「何が故に。」
首座「我知る。無明の波に落つる涙の孤独な音を。救いを求め、伸ばす手の凍えるような冷たさを。ならば、我なんぞそれを見過ごさんや。」
問者「否、汝がごとき無精進に何ができるか。」
首座「今ここに誓願を起こさずして何が生まれるか。たとえ己を無精進、無道力と知りつつも、今ここで志さずして何が成し遂げられるか。」
問者「釈尊以来二千余年、未だ世の無明は尽きんぞ。」
首座「嫡嫡相承されたる一筋の光明。我、唯その光を紡がん。」
問者「尊意、尊意。然れども、生老病死の波の中、幾ばくのことが成せんや。」
首座「たとえ生をかえ身をかえても、誓うところは衆を度するの舟なり。」
問者「珍重(チンチョウ)。」
首座「万歳(バンゼイ)。」
問答は10問でしたが、首座和尚は気迫を体全身に漲らせながら問答を戦わせていました。

 私は、今回の法要で書記という配役をつとめさせていただきました。 首座寮(シュソリョウ)には首座和尚、書記和尚、弁事(ベンジ※)和尚の三人が起臥しますが、今回弁事さんをつとめたのは、小学校4年生の女の子、清水春鈴さんでした。 祝国開堂と首座法戦式の法要の中で、弁事さんが新命様や首座和尚に質問を投げかける場面がありますが、弁事さんは緊張せず堂々と問いかけていました。 私は出家するまでお寺の晋山式という儀式を知らなかったため、小学4年生で法要に参加している春鈴さんの姿を見て、驚嘆かつうらやましく思いつつも、春鈴さんにとって今回の経験はきっと将来の良い糧になるだろうと思いました。

 二日間の大法要の間、時雨れることもありましたが、すべての法要を終えると新命様はじめ、随喜御寺院、親戚や檀信徒の皆様は安堵の表情を覗かせていました。 私にとっては法要ばかりでなく、事前の準備から法要後の挨拶回りまで、いろいろな面で勉強させられた晋山式でした。 この経験をこれからの修行人生に役立てたいと思います。 新命様、随喜御寺院様、親戚や檀信徒、一般参拝者、またその他の法要関係者の皆様、二日間お疲れ様でした。

(備考)
※ 晋山結制:晋山に因んで多くの修行僧を結集して修行を行うこと。
※ 開基:寺院を開創すること。
※ 首座入寺式:結制修行を始めるに当り、優れた修行僧を首座(第一座)の任に請する儀式。
※ 土地堂念誦:結制修行の安穏を願い、土地神に祈念する法会。
※ 配役本則行茶:結制の配役を伝え、首座法戦式において挙誦する本則を披露するために設けるお茶の行禮のこと。
※ 随喜:法要に助力すること。
※ 本則:優れた古徳の示した語句。後人参禅者の手本とするに足る法則。
※ 新命:新たに任命された住職となる者、臼井樸堂さん。
※ 安下処:賓客や新命住職の臨時の宿処
※ 上求菩提下化衆生:菩提の佛果を求める自利業と一切衆生を化益する利他業
※ 首座法戦式:首座が大衆と問答をかわす法問の儀式。
※ 歴住報恩諷経:歴代住職に対する法要。
※ 檀信徒総回向:檀信徒の先祖供養法会。
※ 拈竹箆:竹箆を拈ずること。
※ 問者:首座和尚に対して問答を掛ける者。
※ 自未得度先度他の行を行ずるためなり:自分よりもあらゆる人々を先に度す誓願行。
※ 弁事和尚:首座寮にあって雑務に任ずる僧。

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