圭秀の修行日記2005/02/01

漢字とにらめっこ

 智源寺(宮津市)では、昨年4月より月一度、僧侶及び一般の方を対象に詩偈(シゲ)講座が開講されています。この講座は、漢文を基本として、僧侶にとって必要不可欠である法語(ホウゴ※1) を作るための講座です。東京より漢詩の先生をお招きし、3日間集中して勉強させていただいております。午前2時間、午後2時間、薬石(ヤクセキ※2) の後に1時間30分の講義時間を設け、司馬遷の『史記』を読んだり、受講生が作った七言絶句(シチゴンゼック※3) の漢詩を先生に添削していただいたり、又時には、漢字についてのお話を聞かせていただいております。うまく漢文を読み下せず頭を抱えたり、漢詩の韻と平仄が合わず困り果てたりと、悪戦苦闘の日々を過ごしていますが、それでも辞書を片手に何とか頑張っております。
 1月の講義の中で特に印象に残ったことは、字の変遷についてのお話です。中国から日本に伝わった漢字が、時代の流れと共に字体が変化していることを学んだからです。日本では明治時代の頃まで数万字あった漢字が、昭和21年以降当用漢字(1850字)に減り、その後常用漢字(1945字)に移り変わり現在に至っていることを知りました。今まで漢字の字体を全く気にとめたことはありませんでしたが、旧字体を知ることにより一つ一つの漢字が持つ意味をより深く理解することができました。
また先生は外国における漢字についても説明して下さいました。
「ぺ ヨン ジュン、 チェ ジ ウは漢字でどのように書きますか?」
「胡志明は何と読みますか?」
このような身近な視点から講義を始められ、中国の字体が、甲骨文から金石文、篆書、隷書、楷書、行書、草書と移り変っていることや、『論語』や『千字文』は285年、応神天皇の時に百済より日本へ伝えられたことなど、幅広く教えて下さいました。カタカナでの表記に頼りすぎ漢字と疎遠になっていた私でしたが、漢字で記すことができる外国の言葉がいろいろあることを発見致しました。
 進学の際に理数系を選択したこともあり、さほど漢字に馴染みはありませんでしたが、出家させていただいてからは漢字に取り囲まれる毎日です。そのため、漢字に追い詰められ八方塞となっている今の状況を、克服しなければと以前より思っておりました。この先もまだまだ漢字とにらめっこの状態が続いていくものと思われますが、いずれ法語を作るばかりでなく、古い仏教書を読めるように、漢字と仲良く二人三脚できるよう精進したいと思います。

(備考)
※1:宗師家が学人に対し仏法の道理を示した語。葬儀の時、棺の前に立って導師が教示する引導法語などをいう。
※2:夕飯
※3:漢詩形の一つ。七言四句から成る近体詩。唐代に発達し盛唐以後最も盛んになった。


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