2004/10/28

瑞世拝登を終えて

 永平寺での修行を終え、送行(ソウアン※1)してから早や8ヶ月が過ぎました。 今は永源寺と智源寺を往復する忙しい毎日が続き、お山(永平寺)での生活がすっかり遠い過去の出来事のようになってしまいましたが、今月末、私は再び懐かしの永平寺の門をくぐったのでした。 総持寺(神奈川県)との両本山において、瑞世拝登(ズイセハイトウ)をさせていただくためです。 瑞世の意味は次の通りです。 昔は一般寺院で住職となり、力量ある者は本山にて一夜住職をし、出世の誉れとしました。 現在は永平寺・総持寺に拝登して、住持(ジュウジ※2)の資格を得ることをいいます。俗に転衣(テンエ※3)ともいいます。

 永平寺に到着したのは、10月26日の午後でした。 お山は相変わらず多くの参拝者で混雑していましたが、昨年春、修行のために上山威儀に身を固め、ガタガタと震えながら山門をくぐったあの時の心境とは裏腹に、今回は故郷に帰ってきたという懐かしささえ感じました。
 その日は、瑞世客行(ズイセカアン)との到着の拝の後、明朝の法要や式の進退ならしをして、本番のイメージトレーニングをしながら休みました。 久々の永平寺の空気は心地よく、瑞世師寮を出た際に偶然出くわした同安居の雲水(ウンスイ)から、「明日、頑張ってください」と励ましの言葉をもらいとても勇気づけられたのでした。

 そして、いよいよ当日――― 振鈴(シンレイ※4)で午前4時に目覚めた後、僧堂での坐禅。 そして、承陽殿(ジョウヨウデン※5)で御上壇拝謁(ゴジョウダンハイエツ)をしました。 一生に一度の御上壇への登壇。瑞世の重みをひしひしと体で痛感しながら、高祖様(道元禅師)や太祖様(瑩山禅師)、その他永平寺歴住様にお拝をしました。 朝課に随喜後、請状授与式(ショウジョウジュヨシキ※6)をして、佛殿での祝祷諷経(シュクトウフギン)、承陽殿での高祖大師・二祖国師献粥諷経(コウソダイシ・ニソコクシケンシュクフギン)法要に導師として臨みました。 役寮さんや古参和尚さんが両班(リョウバン)にズラリと並ぶ中入堂した時には、導師をミスなく勤めることができるか不安でしたが、無事に終わった瞬間、こみ上げてくる感動と共にある種の達成感を感じないわけにはいきませんでした。 祝拝後、監院寮でお茶をいただき、瑞世上膳(ズイセアゲゼン)を美味しくいただきました。 大庫院での修行中に午前1時に起きて作ったことを思い出し、一品一品をじっくりと味わいながらいただきました。
 最後に再び瑞世客行と下山之拝(アサンノハイ)をして永平寺での瑞世拝登は終了致しました。 現在も永平寺で修行中の同安居との話はつきませんでしたが、私は引き続き総持寺へ拝登するため、名残惜しい気持ちを抑えつつ永平寺を後にしました。 知っている方が多かったこともあり、役寮さん、古参和尚さん、同安居の和尚さんがみんな温かく迎えていただきとても嬉しく思いました。

 その日のうちに今度は神奈川県に向かい、総持寺へ拝登をさせていただきました。 永平寺同様、総持寺でも28日の瑞世当日は同じような流れで進みました。 朝の坐禅後、大祖堂(ダイソドウ)において御開山拝登。 須彌壇(シュミダン※7)に登り、太祖様、高祖様にお拝をしました。 朝課随喜後、請状授与式をして赤いお袈裟を身にまとい、祝祷諷経、瑞世上供諷経法要の導師を務めさせていただきました。 祝拝をし、記念写真の後、監院寮にて副監院老師からお祝いのお言葉をいただきました。 最後に、祝膳をいただき、下山之拝をして、拝登は終わりました。 総持寺の大祖堂は千畳敷きともいわれるほど大きなお堂で、そのど真ん中で二つの諷経の導師を務めさせていただき、永平寺とは違った達成感を味わうことができました。

 緊張せず淡々とこなした拝登でしたが、その理由は拝登者が私一人だけでなかったからだと思います。 永平寺では合計5人で心強かったですし、永平寺での瑞世で一緒だった方と引き続き総持寺で瑞世をしたのですが、その方が総持寺での安居を経験されていたので、総持寺のお拝の仕方、お袈裟の掛け方、導師進退をより詳しく教えていただき、両本山の進退の違いが分かりました。 2泊3日の両本山瑞世拝登でしたが、皆様から親切にご教示していただき無事に終えることができました。 心より感謝を申し上げます。 高祖様や太祖様、その他の佛祖方、そしてお師匠様はじめ今回の拝登でお世話になった皆様の恩に報いるためにも、これからもできるだけ精進してゆこうと思いました。

(備考)
※ 1:修行を終え下山すること。
※ 2:一寺の主長となる僧。住職。
※ 3:僧侶三大出世(立身・転衣・結制)の一とされ、従来の黒色の袈裟を改めて、色の袈裟に転ずることをいう。転衣した僧侶は和尚または力生と称される。徳川時代には転衣には朝廷の綸旨を受けることになっていた。
※ 4:起床の時刻を知らせるために小鈴を鳴らすこと。
※ 5:開山道元禅師・二世懐弉禅師・三世義介禅師・四世義演禅師・五世義雲禅師までの五大尊の尊像を安置する祖廟。
※ 6:招請の書状を授与すること。
※ 7:仏像を安置する須弥山をかたどった壇のこと。

瑞世上膳


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