圭秀の修行日記2003/08/15
 

僧侶がまた消えて

 新到和尚(シントウオショウ※1)は、自分のお経の点検をしてもらうため古参和尚(コサンオショウ※2)の前に長い行列を作って番を待ちます。 この行列は、毎年、お盆が近づくにつれて段々と短くなっていきます。 なぜでしょう? それは、お盆に備え師寮寺(シリョウジ)を補佐するために、夏の他出(タシュツ※3)を希望している雲水(ウンスイ※4)が、努力の甲斐あって合格をすると一人消え二人消えていくからなのです。 古参寮舎とは、この場合、講送寮(コウソウリョウ※5)、堂行寮(ドウアンリョウ※6)、首座寮(シュソリョウ※7)のことをいい、この三寮舎の関門を潜り抜けた者がはれて他出できるのです。 朝課(チョウカ※8)で読経するお経をきちんと暗記しているか試験されるのですが、合格した雲水は1週間の他出を認められ、永平寺の修行から一時的に解放されます。

 今日もまた、ひとりまたひとりと雲水がお山(永平寺)をおりていきました。 お山は次第次第に閑散としたものになっていき、気が付いた時には、山内の人数は通常の三分の一となっていました。 私はお盆期間中、永平寺に留まり公務を務めさせていただきましたが、雲水が減ったことでお山の様子はだいぶ変わってしまいました。 先ず、法要に随喜する雲水が減ったことでさびしいお勤めの毎日となりました。 また、作務(サム※9)の時間は忙しくなりました。 いつものように作務をしていると、時間内に終わらなくなってしまうからです。 坐禅堂や衆寮(シュリョウ※10) の掃除は特に大変でした。 衆寮に住していた36人の雲水が10人となったため、最初のうちは思い通りに掃除がはかどらず、途中でみんなが困り果ててしまう時もありました。 しかし投げ出すわけにはゆきません。 気持ちを入れなおし連絡を取り合いながら自分のなすべきことをこなすよう全員で誓いました。 すると徐々に作務の効率が良くなり、他出して不在の雲水の所まで隅々を掃除することができました。 次になすべきことを確認しあいながら作務をする光景は、作務をはじめた時の四苦八苦する私たちとは正反対のものとなっていました。

 そのような慌ただしい毎日に、楽しい出来事がありました。 開枕罷(カイチンハ※11) 突然ケーキが振舞わられたのです。  実はその日、衆寮にいたある雲水の誕生日だったのです。 公務を掛持ちしながらこなしている私たちを見て、古参和尚がケーキを調達してくれたのでした。 さらに、大庫院の飯頭(ハンジュウ※12) さんからはフルーツの添菜(テンサイ※13) をいただきました。 思いも掛けない出来事に少し驚きながら、みんなで誕生日パーティーをしました。 忙しい毎日ですが、この時ばかりは暖かいムードに包まれました。

 お盆が終わると他出していった雲水が再び永平寺に帰ってきます。 人数が少ないことで力をあわせながらお盆期間を乗り越えてきましたが、雲水の数が増えたからといって気を緩めることなく、これからもその時その時を大切に、修行に励んでゆこうと思います。

(備考)
※1:永平寺での修行期間が1年未満の雲水
※2:永平寺での修行期間が1年以上の雲水
※3:外泊すること。
※4:修行僧のこと。
※5:衆寮に住する新到和尚を監督する2年目寮舎
※6:雲水全体を監督し、誦経の際に打磬挙経等の役を掌る3年目寮舎
※7:雲水全体を取りまとめ、先導してゆく首座の起臥する寮舎
※8:朝のお勤め
※9:掃除のこと。
※10:修行僧が坐禅堂において坐禅を修するのに、衆寮では中央に観音菩薩を祭り、読書などに用いもっぱら智慧を磨く。
※11:消灯時刻の午後9時以降。
※12:雲水の粥飯の世話を務める役。
※13:修行者に対し食物を供すること。


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