2003/03/20

大庫院の公務中

「転役告報・・・大庫院(ダイクイン) 典行兼菜頭(テンナンケンサイジュウ)・・・圭秀」
 私は、13日粥罷(シュクハ:朝粥の済んだ後)のこの告報により、典座(テンゾ:禅院で衆僧の食事をつかさどる職位)という大試練に遭遇することになりました。 初日から、その厳しさに度肝を抜かれてしまったのです。 なぜなら、大庫院には転役(テンヤク:寮舎が変わること)直後の1週間、公務中期間の厳しい決まりがあったからでした。

 それは、振鈴(シンレイ:起床の時刻を知らせるために鈴を鳴らすこと)の2時間前、つまり午前2時30分(この時期は4時半振鈴)から開枕(カイチン:就寝時間)の午後9時まで、流しや鍋、釜、床、ガラス、蛍光灯、銀台、排水溝など・・・ 大庫院の中の磨けるものは全て磨くというものでした。 小食(ショウジキ:朝粥)、中食(チュウジキ:昼食)、薬石(ヤクセキ:夕飯)の時間と午前10時と午後3時の30分の休憩時間は与えられますが、後はひたすら下を向き、ピカピカになるまで磨くのです。

 永平寺上山前、精進料理には興味があったので、大庫院での修行を希望していましたが、その修行がここまで辛いとは思いませんでした。 2日目で早くも厚手のゴム手袋に穴が開くほどです。 初めの頃は、「本当に一週間やり通せるだろうか?」 「途中で倒れてしまうのでは?」と思うばかりでした。 その時その時を一緒に転役した他の2人の雲水(ウンスイ:修行僧)と励まし合いながら、ただただ頑張るだけでした。

 しかし、その様な毎日を過ごすにつれ、私の心に変化が現れました。 感謝の念が強くなったのです。休憩時間に古参和尚さんより差し出されるおやつは、まさに宝物のようでした。 たった一つのチョコレートでも非常にありがたく感じられ、その一口でくたくたになった体が息を吹き返し、「またやっていこう」という気持ちになりました。

 大庫院の器物をひたすら磨き通すことによって、物を大切に扱うことの意味を知りました。 食べ物をいただくことへの感謝の気持ちが大きくふくらみ、また幸せとは自分の手の届かないところにあるものだと思っていましたが、実は身近なところにあるものだということも知りました。 この一週間で私は生きる上での重要なことを学んだような気がしました。

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