2002/04/06

「永源寺裏物語」
 永源寺には、昨年7月の私の得度式とほぼ同時期にやってきたラブラドール・レトリーバーの雌犬が1匹います。 昨年の4月に生まれた白い犬で、名前をマハー・プラジャー・パティ(お釈迦様のお母さんの妹で育母の名前)といいます。 まだ子供なので、いろいろなものに興味があり、視野に入るもの、聞こえてくるもの、匂うもの、触れるもの全てに敏感に反応しています。 パティの散歩は大抵方丈様がなさっているのですが、方丈様が多用な日は私が代行することもあります。

 ある日、パティをつれて永源寺の裏山に行った時のことです。 リードをはずし自由にさせていると、偶然パティが子狸を見つけたのです。 永源寺からさほど遠くない場所だったのですが、狸が一匹、くりくりとした目を大きく見開いてこちらを見ていました。 親とはぐれてしまったのか、餌を探すため里に降りてきたのでしょう。

 私もパティも野生の狸を目の当たりにするのは初めてでしたが、呆然としている私をよそに、パティは遊び相手が見つかったと思い込み、喜んでその子狸に駆け寄っていきました。 すると、じっとしていた子狸は身の危険を感じとっさに方向転換し、勢い勇んで山の奥へと走り出したのでした。 しかし懸命の努力の甲斐ないもなく、子狸は自分より一回りも身体の大きいパティにつかまってしまいました。

 私にハプニングが訪れたのはこの後でした。 捕らえられた後も、なんとか逃げようともがいていた子狸でしたが、身動きさえ取れなくなった途端、パティに噛みつこうとしたのです。 それまでは高みの見物をしていた私でしたが、これはまずいことになったと思いました。 パティに怪我をさせては大変だからです。 そこで、子狸とパティを引き離そうとしました。 しかし、手を差し伸べた時に逆に私が指をかまれてしまったのです。 「イテテテテ・・」 子供とはいえ野生の狸、指からは血が一滴一滴流れ落ちていました。 軍手を身につけていましたので、傷はさほど深くありませんでしたが、手当てをしてもらうため、病院へ行きました。 おかげさまで傷口はすぐに閉じ、大事には到りませんでした。

 私の指をかんだ後、子狸はどうしたのかというと、我々の隙を突いて近くの川へ逃げ込みました。 パティもすかさず後を追いましたが、草むらに逃げ込んだ子狸を結局発見することはできなかったようです。

 永源寺の裏山には多くの動物たちがいて、先月も同じように散歩をしていると、パティが10メートル先にいた猪を見つけてくれました。 そのときもパティは猪を遊び相手と勘違いし、駆け寄っていきました。 そのため猪の方がパティを怖れ、山の奥へと逃げていきました。 パティは後を追いましたが、猪の馬力とスピードにはかなわず、追いつくことは出来ませんでした。 パティのお陰で私は命拾いをしました。 そこで、猪が逃げる途中に一度我々の方を振り向いた時に「あの生き物には近づかない方が良い」と教えてあげました。

 猪との遭遇により山に入る時には声を出したり、鳴り物を鳴らしたりと、自分の存在を獣たちに教えてやらねばいけないことを思い知らされました。 今回の狸の場合は、木の枝などで対応すればよかったと、反省しました。

 それから4日後のことです。 一件落着したかのように思われた狸騒動には、まだ続きがありました。 境内で死んでいる狸が発見されたのです。 堰堤の上で死んでいるのを、方丈様がパティとの散歩の際に見つけられたのです。 果たして私の指をかんだ狸なのか? また、なぜこのような場所で息耐えたのか?疑問だけが残りましたが、そっと裏山へ埋めてあげました。 最近、狸に縁がある圭秀でした。

永源寺の愛犬『パティ』


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