圭秀の修行日記2005/04/03
 

長松寺大法要を終えて

 4月2、3日の両日、萬壽山長松寺(マンジュサンチョウショウジ)において退隠式(タイインシキ)と晋山結制(シンサンケッセイ)の法要がありました。 長松寺二十一世大田老師が住職位を退き、代わって前橋新命(シンメイ※1)が二十二世として新しく任命されたのです。 この法要は、本来昨年10月末に営まれる予定でしたが、台風23号の被害により延期となり、関係各位が半年近く待ち続けた末ようやく厳修の運びとなりました。 そのため、この法要にかける皆様の思いは特別なものがあって、必ず成功させようという意気込みがその表情に表れていました。

 長松寺様は兵庫県豊岡市にあります。 柱状節理をなす玄武岩でできた洞窟、玄武洞が近隣にあり、緑に囲まれた自然豊かな場所に立地しています。 由緒格式があり、歴代住職には秦慧昭禅師や秦慧玉禅師のように、大本山永平寺の住職となられた方もおられます。 師匠と大田老師は法友として以前より親しくお付合いされていましたが、秦慧昭禅師が智源寺の住職にも晋住なされていたこともあって、長松寺様と永源寺と智源寺のご縁はさらに深いものとなっております。 私にとりましても、長松寺様には得度式より何かとお世話になっていましたので、この度の法要に随喜させていただき大変感謝しております。 微力ながら精一杯お手伝いさせていただくことで、今までの恩返しができればと思い、当日を待ち望んでいました。

 大法要初日は、あわただしい1日となりました。 なぜなら午後3時より始まる退隠式の前に、午前中に永源寺では2軒、智源寺では1軒のお葬式があったからです。 そのお務めの後、長松寺様へ向かいました。 方丈様は養父市でのお務めの後豊岡へ、私は宮津市でのお務めの後その足で車を走らせました。 移動している間、時間内に到着できるか心配しましたが、さほど渋滞がなかったことで何とか間に合って到着することができました。
 退隠式は予定時刻ちょうどに始まりました。 法類、法友、随喜御寺院、檀家の皆様が本堂をびっしりと埋める中、厳かに行われました。 法要後、檀家総代の謝辞があり、大田老師様が退隠に際しての挨拶をされ、最後に花束が贈呈されました。 花束を受け取った瞬間、拍手が一斉に沸き起こり、老師様の笑顔により緊張感みなぎる本堂に和やかな空気が流れました。 皆様の視線を浴びながら老師様は退堂され、退隠式は無事に終わりました。
 退隠式の余韻醒めやらぬまま、引き続き首座入寺式(シュソニュウジシキ※2)、土地堂念誦(ドジドウネンジュ※3)、配役本則行茶(ハイヤクホンソクギョウジャ※4)と法要は進みましたが、最後の首座法戦式(シュソホッセンシキ※5)進退ならしまで初日は滞りなく終わりました。

 翌日は午前8時30分に稚児行列が安下処(アンゲショ※6)を出発いたしました。 降水確率50%という天候で時々パラパラと雨の降る曇り空でしたが、かわいらしく着飾った75名のお稚児さんが町内を歩き始める頃には雨は止み、あちらこちらでカメラのシャッターが切られる中、長い長い行列はゆっくりとお寺を目指しました。
 新命様が山門に到着すると晋山式(シンサンシキ)が始まりました。 これは、就任の儀式です。 新命様は誓願を、山門(サンモン)、仏殿(ブツデン)、祖師堂(ソシドウ)、開山堂(カイサンドウ)の前で吐露されました。 引き続き厳修された祝国開堂(シュッコクカイドウ)では、国家の隆昌発展を祝い長松寺本堂を信仰、修養の道場として広く開放することを宣言されました。 この法要では、随喜寺院が新命様に問答を投げかける場面がありますが、新命様は一つ一つ丁寧に答えられ、檀家様は頷きながら聞き入っていました。 祝国開堂が終わると、首座和尚が激しく問答を戦わせる首座法戦式、檀信徒総回向と続きました。 法戦式では問者(モンジャ)を務めさせていただきましたが、1年前に旭伝院(静岡県焼津市)で首座を務めたことを思い出しながら、内心エールを送りつつ問答をかけさせていただきました。

 今回、私は殿行(デンナン※8)という配役を任されました。 法要がスムーズに進むようにお世話する役です。 今までも何度か晋山式に随喜させていただいたことはありましたが、流れを完璧に把握しきれていませんでしたので、本やビデオにて法要の流れを頭に叩き込み、今回の法要にのぞみました。 知殿寮(チデンリョウ※9)の皆様の指示のもと、実際に体を動かすことで法要の流れをより詳しく把握することができました。 皆様に深く感謝すると共に、今回の経験を生かし、今後さらに法式の勉強を積み重ねてゆこうと思いました。

 長松寺様は数十年前より子供坐禅会を行っており、昨年は智源寺を会場として坐禅会を行うなど坐禅指導には尽力されています。 日頃より子供との交流が盛んで、境内での遊びや勉強、時には一緒に草取りをするという話を耳にします。 新命様はお稚児さんにお守りとパズルをプレゼントされていました。 新命様と共に歩いたお稚児さんが、この一歩をきっかけとし、一歩一歩お寺と共に歩んでほしいと思いました。 長松寺東堂様、新命様、随喜御寺院様、総代をはじめとする檀信徒の皆様方お疲れ様でした。

(備考)
※1:新しい住職
※2:結制安居を始めるに当り、優れた修行僧を首座の任に請する儀式
※3:結制安居が無事に終了するように仏様の名號を唱えて祈ること。
※4:首座法戦式において挙誦する本則を披露するために設けるお茶の行禮のこと
※5:首座が大衆と問答をかわす法問の儀式
※6:賓客や新命住職の臨時の宿処。
※7:佛殿のことをつかさどる者の下にあって、手助けをし、身の回りを世話する役の名。
※8:佛殿に関する一切のことをつかさどる者の居住する寮舎。


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